mouseionのブログ

アニメ感想中心だけど、たまーに色々考察します。

村本太志『透明な耳。』 雑感 障がいと向き合う事の難しさ。


健常者だった人が突然障がい者になり耳が聞こえなくなって世界が180度変わってしまった、それが普通の女子高生だったらという話。
最初は突然の出来事に混乱して家族に当たったり友人や恋人に隠そうと必死だった由香ちゃんが生涯を通して好きだったダンスの可能性を別の世界の住人から聞いてそれで前へ進み出すというような話。ここで欠かせないのは家族そして友人の存在だね。今回のケースだと恋人が偶然知り合ったろう者の人が手話でダンスをするアーティストグループがいるという事でその紹介によって塞ぎ込んでた由香ちゃんの閉じられた世界が開かれてついにはそれをアイデンティティにする事を誇りに思うようになったところか。耳の名医である松尾先生や、補聴器調整で訪れた言語聴覚士のコトリさん、手話教室の浅原さんなど周囲もまた温かく迎え入れてくれて、わだかまりのあった父悟と母裕子も一緒になって三人で現実を受け入れていくって形が良かったね。
ただ残念なのは、ダンス部顧問の中崎さんも悔いてたけど、都立学校が非協力的で結局中途退学になってしまったけど、都立だからそういう教師を雇う金もなければ協力してくれるクラスメイトも限られるという経済的な問題や社会通念というか一旦レールから外れるとそういう所は除け者にする。その上友達のために手話を覚えようとしたら偽善者扱いされるし健常者って障がい者を見下してるっていうけど、由香ちゃんもその一人だって途中で自覚したのは良かったな。でやっぱり立ち直れて良かったな。多分というか好きなダンスミュージックの表現の差異みたいな所に気付けたのが大きいよね。

ところで言語学習の話でアメリカンスクールだと手話を義務的に教えるみたいだけど日本の学校教育はそういうのは全然ないよね。私学とかろう学校とかに行け!って強く促されるものね。国公立の学校だと一見自由度が高そうだけど実際は閉鎖的なんだなって思わせるね。この作者、参考文献めっちゃ記載されてて大分勉強というか研究されたんだなって分かるからこういうケースの学校もあるんだろうと分かるわ。排他的とまでは言わないけど一種の外国語みたいなもんだしね、手話って。そういうのの門外漢だからどうしてもその対応をするにはその対応の出来る人を用立てないと駄目になるから費用面をまず考える学校教育の中では多分実現は不可能だし障がい者障がい者の学校への転学を勧めて終わりだろうしね。

学校教育って何だろうね。何なら手話を義務教育に放り込んで一般の学生諸君にも最低限の会話程度の手話能力を施すべきなんじゃないかって思うけどね。いっそセンター試験で手話という言語を取り入れてみるとかね。そうする事でもう少し一般の人の意識も変わっていくんじゃないかな。難しい話だわ。
本作の物語自体はそれを無くしても十分読める面白さなので障がいとかろうとか興味ないわ!って人でも読みやすい内容になってると思う。ちなみに僕の読破時間は大体3時間ちょっと位かな。とにかくスッと読める位映像が脳内に入り込んできてすぐ形になる文章が良いからオススメしたい。