mouseionのブログ

アニメ感想中心だけど、たまーに色々考察します。

宮城谷昌光『湖底の城 第八巻』 雑感 呉が滅ぶのが先か、越が滅ぶのが先か。

ようやく読めた宮城谷昌光の湖底の城最新刊。
臥薪嘗胆の元となった呉王夫差と越王勾践の国の存亡を賭けた戦いの末、湖底の城前半の主役伍子胥の機略を前に越が全面敗北。何とか講和を得る代りに勾践は三年以上にも渡って夫差の馬番や奴隷の扱いを受け我慢し続けるといった目に遭う中、彼が無事に帰還する事を夢見て范蠡が国内情勢の良化や呉の敵対国である楚との国交復興など隠密に策略を巡らしていった、という話。
范蠡の班の中にスパイがいるんじゃないかという話が持ち上がる一方、伍子胥はかつての覇者闔閭の子夫差によって虐げられ、彼を始め闔閭の有能な部下たちは皆伯否によって廃されていく正に前半部で伍子胥が楚で味わった事を繰り返す事になった。横山光輝史記だと、夫差は優等生で闔閭は暗愚でないかと気にしたけど伍子胥がゴリ押ししたので最終的に二代目になった経緯があって、その時は夫差も中々優秀なんだなと思ってはいたけど、これを読む限りかなり悪辣非道な人物の描かれ方をしてるのでそのギャップに驚いた。夫差はどうも夏桀殷紂を彷彿させる。西施を侍らせる為に楚から越に嫁いだ正室を火刑で殺そうとしたりと卑劣さが尋常でない。確か范蠡って伝説では絶世の美女、中国四大美女だったかな?の西施を呉王夫差に与えて籠絡させたという。何かその辺りから宮城谷がヒントを得て前々巻辺りから仕込んでたという感じかな。
それにしても父親の仇を討つとは何だったのか、美女を得て勾践という奴隷を得れば満足なのか。先王の遺志を受けて越を滅ぼさんと誓った伍子胥が憐れ過ぎる。しかも恐らく次の九巻で伍子胥は自決させられるから、呉主役の視点で見るのは今度で最期だなと思うと悲しくなってくるな。
多分宮城谷先生も高齢だから次か十巻で無理くり収めて来るんじゃないかな。いや終わらせるのは凄く良い事なんだけど、問題は范蠡という人物は商人の出だから狡兎死して走狗烹らるという有名な故事に倣って范蠡が出奔ないし隠遁した後のエピソードはかなり重要であるはずなのに、恐らく10ページも書かないんじゃないかと危惧する。宮城谷作品を見渡せば大体その傾向が極めて強く、特に前半は凄く綿密に緻密に書いていくのに対して後半の一番読みたいと思わせる戦後の話は割と淡々と簡単に締め括られてるので今度もそれかもしれない。でも陳舜臣など数多の名歴史小説家の類ですら描けなかった世界を描く力を持っているはずの宮城谷先生が今度も簡略に書くとは到底思いたくないので淡い期待をしておきたい。